

地域を守るという誇り
持続的な経済活動を営むためには、地球環境の保全が必要です。この実現には限りある資源を有効利用するのはもちろんのこと、再生可能な資源やエネルギーを適切に利活用するためのビジョンと、科学的根拠に基づく確かな技術がなくてはなりません。谷黒組のエネルギー環境部では、この目標に向かって研究開発に取り組んでいます。
私たちは木材や食品廃棄物、下水汚泥などあらゆる生物資源(バイオマス)を省エネルギーな方法で炭(バイオ炭)へと変換する技術の開発を目指しています。炭は私たち日本人には古くから馴染みのあるものですが、近年、炭の持つ様々な機能性から、日本国内だけでなく世界中でも注目を集めています。例えば、炭はそのままバイオ固形燃料として利用できるだけでなく、農業分野では土壌改良材として、環境分野では汚染物質の吸着剤として利用されるなど、多くの産業分野で使用されており、その需要は今後も増していくと考えられます。
その一方で、バイオマスを炭へと変換する中で生じる環境への負荷についても注意しなければなりません。一般に炭製造は原料であるバイオマスから水分を取り除く乾燥プロセスと、バイオマスを炭素成分の富んだバイオ炭へと変換する熱分解(炭化)プロセスで構成されています。これらのプロセスを達成するには外部から加熱する必要がありますが、現状、熱源を化石燃料に頼っているのがほとんどです。このような炭製造技術ではバイオ炭を作るほど枯渇資源を消費することになり、むしろ環境負荷をかけることになってしまいます。
私たちは現在、原料であるバイオマスの自己昇温反応を利用した新しい炭化技術(自己発熱型炭化法)の開発を進めています。この炭化法は適切な環境を整えることでバイオマスの酸化反応を引き起こし、発生した酸化熱で乾燥と炭化を行う技術です。炭製造に必要な熱源を原料内部から抽出しているため、炭製造に必要なエネルギー量を大幅に削減できると期待しています。
自己発熱型炭化法の研究開発は、北海道大学大学院農学研究院の岩渕和則教授と共同で行っており、炭化プロセスの詳細なメカニズムの解明、安定した自己昇温反応が進む操作条件、さらには得られるバイオ炭の理化学的性質の把握などを進めています。
特許第6374632号(2018年7月27日) | 発明者:谷黒克守、岩渕和則、伊藤貴則、太田薫平 『バイオマス材料の炭化処理方及び炭化物の製造方法』 |
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特許第4538595号(2010年7月2日) | 発明者:谷黒克守、岩渕和則 『バイオマス材料の処理方法及び熱エネルギー利用方法』 |
特許第4382856号(2009年10月2日) | 発明者:岩渕和則 『有機性廃棄物の処理方法及び熱エネルギー利用方法』 |
Itoh, T., Iwabuchi, K., Maemoku, N ., Sasaki, I., Taniguro, K., A new torrefaction system employing spontaneous self-heating of livestock manure under elevated pressure, Waste Management, 85, 66-72, 2019. DOI: 10.1016/j.wasman.2018.12.018 |
Itoh, T., Iwabuchi, K., Ota, K., A new approach to stabilize waste biomass for valorization using an oxidative process at 90°C, PLoS ONE, 13(4), e0196249, 2018. DOI: 10.1371/journal.pone.0196249 |
Bakri, S., lwabuchi, K., Yoshimoto, R., Taniguro, K. Torrefaction of High Moisture Content Biomass in an Industrial Rotary Kiln Combustion Type Reactor, Journal of the Japanese Society of Agricultural Machinery and Food Engineers, 80(2), 123-132, 2018. |
以上 文責:主任研究員 博士(農学) 伊藤貴則